10代の心の悩みの実際
10代の心の悩みの実際
子どもの不安障害のきっかけはさまざまである。ある男児は運動会の練習を休んでしまった。それ以来よく熱を出すようになり登校を嫌がるようになった。母親と二人きりになるといくらでも遊ぶことができる。目を合わしておどけながら遊ぶ。膝の上にも乗ってくる。しかし同い年の集団の中へ誘おうとすると尻込みする。家に帰ると一人で仲間との遊びを真似している。ある男児は仲間に悪口を言われてから登校を渋りはじめた。しばらくして円形脱毛症になった。母親につき添われて病院通いをしながら通学している。幼児期には自家中毒で母親を困らせていた。心配性の母親といつも一緒にいた。下校すると元気になる。家ではひとりごとを言いながらテレビゲームに熱中している。母親が口をはさむと激しい言葉で食ってかかる。母親に反抗する反面、一人で留守番ができない。母親をいつもそばに置いている。子どもの分離不安である。自己を主張しはじめる時期に来ており母親に激しい言葉を投げかけるが、根底には母親への強い依存感情がある。
母親による子どもへの心理的虐待も無視できない。子どもと一緒にいるにもかかわらず平気で子どもを嫌いだと口にする母親がいる。わが子を嫌いなトカゲを抱いているようだと漏らす母親もいる。ある母親は子どもへの心配を一生懸命に訴えながら、他方では私が押さえつけてきたからです、それが今になって爆発したと解説者のように心境を述べる。母親の言動がいかに子どもの心に影響を与えるかということに気がついていない。同時に子どもが母親をいかによく観察しているということに気がついていない。このような親子関係の背景には夫婦関係が影響している場合も多い。
ある男児は授業中にじっと椅子に座っていられない、教室からふらっと出て行く、お喋りが多いなどと教師から指摘され続けている。注意欠如・多動症障害である。細かい注意が払えない、うっかりミスが多い、学用品などをなくす、いつも手足を動かしている、不適切な状況で走り回ったりするなどの行動が見られる。あるいは質問に出し抜けに答える、順番を待つことができない、他人のゲームなどの邪魔をするなどの行動もみられる。家庭でも叱られ学校でも注意され、周囲からは行動を改めない強情な子どもだとみなされる。ここで十分な教育的配慮がなされないと子どもの自己評価は大きく歪められる。子どもは親や教師に反抗することによって自己主張をはじめるようになる。そうならないためには子どもの興味の対象を見つけ、その達成をほめることにより自尊心が育成されるように援助しなければならない。
中学生になると不安、抑うつなどを訴えて日常生活に困難をきたすことも少なくない。ストレスに対する耐性が十分でないと容易に不適応が引き起こされる。ある生徒は私学に入学したが電車通学で気分が悪くなり登校できなくなった。ある生徒は学校の雰囲気が合わないといって登校しなくなる。ある生徒は服装検査のことで両親と口論になり親子関係がおかしくなり自室に引きこもるようになった。そしてネットで不登校についてのホームページをみている。一見自覚を持っているようであるがこれは自己完結的な世界である。現在はネットで容易に外部世界とつながることができるが、自分に都合のよい関係で世界とつながっている限り対人交流能力は発達しない。そればかりか生徒の孤独の世界に付け込もうとする危険な大人が待ち構えている。中学生になると心の悩みは多様化し不安障害、恐怖症を初めとして、いじめに関係した心的外傷後ストレス障害、転換性障害、身体の痛みを頑固に訴える身体症状症、摂食障害なども見られるようになる。
高校生の悩みもさまざまである。ある生徒は私立高校が合わず公立高校に転校したいが親に話せない。不登校となり昼夜逆転した生活を送っている。ある女生徒はランクを落として受験して合格したがおもしろくない、その上に生徒指導がきびしくて校風になじめない、同級生が退学する。自分も退学したいが、親が許してくれない。中学時代は楽しかった。思い出すと涙が出てくる。誰も分かってくれない。カミソリで手首を切った。気持ちがスッとした。女子高生では情緒不安定になるとリストカットが見られる。ネットでは「リスカ」の書き込みがあふれている。ある生徒は両親の喧嘩を見ているうちに何事にも無感動になった。生きているのが無意味に感じられる。リスカしたが気持ちが治まらない。それでリスカで「死」という文字を描いたらようやく気持ちがホッとした。このような自傷行為に事前に気づく親はほとんどいない。生徒同士のトラブルから学校のトイレで行われることもある。学校から連絡を受けてはじめて親が知ることになる。ある女生徒はこのような自傷行為に走るがその記憶にないと訴える。解離性障害である。友だち関係や家庭での欲求不満から過食を繰りかえすという摂食障害なども見られる。